2017年08月31日
省エネ診断の事例
今回は、実際に事例を用いて考えてみましょう。
まず、事例を掲載します。
これは、平成26年度エネルギー診断プロフェッショナル認定試験という資格試験の二次試験のレポート課題です。
まず、手順1の事前情報の収集を行います。
図1(出典)
一般的には表にあるような項目と内容を収集します。これにより現地診断をスムーズに進められます。
表1,2(出典)
事例では依頼元の事業所から以下の回答が得られました(図2)。
図2(出典 平成26年度エネルギー診断プロフェッショナル認定試験二次試験より抜粋)
事例(図2)では診断先の情報として、事業所の概要、エネルギーデータ、月別外気データ、エネルギー管理に関するアンケート調査結果、空気環境測定結果、熱源・空調設備仕様、給湯設備仕様、照明設備仕様を収集してあります。
この情報を元に分析を行います。
先ず、
電気
都市ガス
夏期、冬期、中間期の代表的な1日の時間帯別平均使用電力
夏期、冬期、中間期の代表的な1日の時間帯別都市ガス使用量
をグラフにしてみます。グラフ化にも工夫が大切です。先ず、月別の電気と都市ガス使用量をまとめて1つのグラフで表します(図3)。
図3
次に、時刻別の電気及び都市ガス使用量も1つのグラフにまとめます(図4)。
図4
このように電気とガスをまとめて比較することでエネルギー消費の多い設備の特定や後でで説明する特異点の分析の手がかりになります。
また、電気に関しては契約電力、最大電力、月別平均電力のグラフ化も有効です(図5)。
図5
最大電力に注目することは電力平準化を考える上で必要不可欠です。
ここまで、電気、都市ガスの各種エネルギー消費の推移をグラフ(図3-5)にしてきました。
ここでは、このエネルギー消費推移の特異点について考えてみましょう(図6)。
図6
特異点とはエネルギー使用のグラフにおいて特徴的なところであり、分析する上でポイントになります。
図のように例えばエネルギー種類別使用状況であれば、使用量が最大の月がエネルギー種別により異なるということを見ます。図の例では、空調に電気とガスを併用とのことですが、ガスの使用量は8月に最大となっています。一方、電気は9月に最大となっています。これだけでは確かなことは分かりませんが、例えば8月はガス焚冷温水機と電動機式の空調機などを併用したが9月は電動機式の空調機を中心に使用したといった状況が推定されます。省エネルギーという観点では通常、都市ガスより電気のほうが原油換算消費量やCO2発生量が多いと言えます。ですので、この特徴は一つの特異点といえるでしょう。
次に、年間電力使用状況であれば、例のように最大電力が9月とありますが、一般的に外気温の高い8月が最大となることから、例えば9月に複数の設備の使用が特定の時間に集中したといったことが推定されます。このような状況は電力平準化においてマイナス要因です。電力平準化とは「電気の需要量の季節又は時間帯による変動を縮小させること」をいい、平成26年4月1日施行の省エネ法の改正点として盛り込まれました。これは、東日本大震災での原発事故による電力需給の切迫が背景にあります。
電力平準化に際しては、設備使用時間帯をずらすピークシフトや支障がない程度に不要な照明や空調などを消すピークカットが有効です。
ですので、この最大電力というのは重要な着眼点と言えます。又、最大電力に対する平均電力の百分率を負荷率といい、値が大きいほど平準化しているということです。
次の時刻別電力使用量にも特徴があります。先ず、業務開始と電気使用量の上昇の時間帯、または業務終了と電気使用量の低下の時間帯は一致しているか、一致していなければ余分に電気を消費していないかといった視点で見ます。それともう一つは、一般的に昼休みに電気使用量が下がるという特徴があるので、そのような特徴が見られるかどうか、もし見られないか或いは小さい場合、消灯やOA機器のオフなどが不十分といったことが推定されます。
以上を踏まえて実際の事例のグラフ(図3-5)を見てみましょう。
以下では図3-5にコメントや矢印を付したものをそれぞれ図6-8とします。
先ず、月別エネルギー使用量(図6)からです。
図6
使用量の最大が都市ガスで8月、電気で9月となっています。また、5月は都市ガスの使用量がゼロですが、電気の使用量は都市ガスの使用がある他の月、特に10月とはほぼ変わりません。熱源・空調設備仕様を見ると熱源設備としてガス吸収式冷温水機があり、ポンプや冷却塔といった電気を使う機器で構成されています。つまり、都市ガス使用量がゼロの5月は冷温水機を稼働させなかったと考えられます。であれば、その分の電気使用量は稼働したと考えられる10月の電気使用量より少なくなるはずです。しかし、電気使用量は変わっていないということは熱源設備のうち都市ガスを使用する冷温水機自体は停止し、ポンプや冷却塔のファンは停止していなかったといったことが推定されます。もちろん、様々な要因があり得るので一概には言えませんが、こうした特徴から熱源設備は現地調査の一つの対象ということになります。
一方、月別電気使用量(図7)を見てみましょう。
図7
先ず、最大電力は9月の651kWであるのに対し年間平均電力は229kWであり、年間の負荷率、これを年負荷率といいますが35.2%となりました。そして、一般的に8月にピークとなるはずが9月に最大電力となっていることから先程の特異点の考察から電力平準化の余地があると考えられます。つまり、ピークシフト、ピークカットにより年負荷率の改善が期待できます。
次に、時刻別電気・都市ガス使用量(図8)について見てみましょう。
図8
①の始業前時間帯は、電気が各期とも上昇時間帯が同じなのに対し、都市ガスは上昇時間帯が夏期に冬期と比べ早いです。
②の操業時間帯は、電気使用量の特徴である昼休み時の低下が見られません。
これは消灯の不十分が考えられます。よって、照明設備は現地調査の対象と言えます。
③の残業時間帯は、電気・都市ガスともに緩やかな減少をたどっていて、これは一般的な特徴と言え問題ないでしょう。空調・照明区画の限定で更なる省エネルギー化が期待できます。
④の非使用時間帯は、電気・都市ガスともに、夏期に消費が見られます。夜間の不要な照明・換気・熱源等がないか確認が必要です。
最後に、エネルギー管理に関するアンケートを元にどういったことがあ不十分なのかを見てみましょう。アンケート結果を元に項目を数値化し、グラフにしました(図9)。
図9
計測・記録が他に比べ低く出ており、その重点項目として設備稼働時間を挙げてみますと、その対策として電気の切り忘れ防止があります。これは比較的容易にできます。
また、見直しが必要と思われる項目として、計画的人材育成が挙げられます。具体的にはエネルギー管理を専門的に行える担当者等の育成ということです。
それと、トップの意思表示や目標設定も必要になってきます。目標に関して従業員がしっかり認識を共有していることが大切です。
以上の事前情報の分析を元に着目すべき設備やその運用等を洗い出し、診断方法等の事前準備を行い、現地診断を実施することになります。
今回の分析を通じ、実際に確認が必要な設備として
ガス吸収式冷温水機とその周辺機器で構成される熱源設備
空調設備
照明設備
が挙げられます。その使用環境や使用時間・期間の状況、また、エネルギー記録の担当者やその他の従業員等の省エネに関する意識が現地診断での着目すべき点として考えられます。
次回は、現地診断の結果の事例を紹介し、そこから課題を抽出し、解決するための提案事例を挙げてみます。
まず、事例を掲載します。
これは、平成26年度エネルギー診断プロフェッショナル認定試験という資格試験の二次試験のレポート課題です。
まず、手順1の事前情報の収集を行います。
図1(出典)
一般的には表にあるような項目と内容を収集します。これにより現地診断をスムーズに進められます。
表1,2(出典)
事例では依頼元の事業所から以下の回答が得られました(図2)。
図2(出典 平成26年度エネルギー診断プロフェッショナル認定試験二次試験より抜粋)
事例(図2)では診断先の情報として、事業所の概要、エネルギーデータ、月別外気データ、エネルギー管理に関するアンケート調査結果、空気環境測定結果、熱源・空調設備仕様、給湯設備仕様、照明設備仕様を収集してあります。
この情報を元に分析を行います。
先ず、
電気
都市ガス
夏期、冬期、中間期の代表的な1日の時間帯別平均使用電力
夏期、冬期、中間期の代表的な1日の時間帯別都市ガス使用量
をグラフにしてみます。グラフ化にも工夫が大切です。先ず、月別の電気と都市ガス使用量をまとめて1つのグラフで表します(図3)。
図3
次に、時刻別の電気及び都市ガス使用量も1つのグラフにまとめます(図4)。
図4
このように電気とガスをまとめて比較することでエネルギー消費の多い設備の特定や後でで説明する特異点の分析の手がかりになります。
また、電気に関しては契約電力、最大電力、月別平均電力のグラフ化も有効です(図5)。
図5
最大電力に注目することは電力平準化を考える上で必要不可欠です。
ここまで、電気、都市ガスの各種エネルギー消費の推移をグラフ(図3-5)にしてきました。
ここでは、このエネルギー消費推移の特異点について考えてみましょう(図6)。
図6
特異点とはエネルギー使用のグラフにおいて特徴的なところであり、分析する上でポイントになります。
図のように例えばエネルギー種類別使用状況であれば、使用量が最大の月がエネルギー種別により異なるということを見ます。図の例では、空調に電気とガスを併用とのことですが、ガスの使用量は8月に最大となっています。一方、電気は9月に最大となっています。これだけでは確かなことは分かりませんが、例えば8月はガス焚冷温水機と電動機式の空調機などを併用したが9月は電動機式の空調機を中心に使用したといった状況が推定されます。省エネルギーという観点では通常、都市ガスより電気のほうが原油換算消費量やCO2発生量が多いと言えます。ですので、この特徴は一つの特異点といえるでしょう。
次に、年間電力使用状況であれば、例のように最大電力が9月とありますが、一般的に外気温の高い8月が最大となることから、例えば9月に複数の設備の使用が特定の時間に集中したといったことが推定されます。このような状況は電力平準化においてマイナス要因です。電力平準化とは「電気の需要量の季節又は時間帯による変動を縮小させること」をいい、平成26年4月1日施行の省エネ法の改正点として盛り込まれました。これは、東日本大震災での原発事故による電力需給の切迫が背景にあります。
電力平準化に際しては、設備使用時間帯をずらすピークシフトや支障がない程度に不要な照明や空調などを消すピークカットが有効です。
ですので、この最大電力というのは重要な着眼点と言えます。又、最大電力に対する平均電力の百分率を負荷率といい、値が大きいほど平準化しているということです。
次の時刻別電力使用量にも特徴があります。先ず、業務開始と電気使用量の上昇の時間帯、または業務終了と電気使用量の低下の時間帯は一致しているか、一致していなければ余分に電気を消費していないかといった視点で見ます。それともう一つは、一般的に昼休みに電気使用量が下がるという特徴があるので、そのような特徴が見られるかどうか、もし見られないか或いは小さい場合、消灯やOA機器のオフなどが不十分といったことが推定されます。
以上を踏まえて実際の事例のグラフ(図3-5)を見てみましょう。
以下では図3-5にコメントや矢印を付したものをそれぞれ図6-8とします。
先ず、月別エネルギー使用量(図6)からです。
図6
使用量の最大が都市ガスで8月、電気で9月となっています。また、5月は都市ガスの使用量がゼロですが、電気の使用量は都市ガスの使用がある他の月、特に10月とはほぼ変わりません。熱源・空調設備仕様を見ると熱源設備としてガス吸収式冷温水機があり、ポンプや冷却塔といった電気を使う機器で構成されています。つまり、都市ガス使用量がゼロの5月は冷温水機を稼働させなかったと考えられます。であれば、その分の電気使用量は稼働したと考えられる10月の電気使用量より少なくなるはずです。しかし、電気使用量は変わっていないということは熱源設備のうち都市ガスを使用する冷温水機自体は停止し、ポンプや冷却塔のファンは停止していなかったといったことが推定されます。もちろん、様々な要因があり得るので一概には言えませんが、こうした特徴から熱源設備は現地調査の一つの対象ということになります。
一方、月別電気使用量(図7)を見てみましょう。
図7
先ず、最大電力は9月の651kWであるのに対し年間平均電力は229kWであり、年間の負荷率、これを年負荷率といいますが35.2%となりました。そして、一般的に8月にピークとなるはずが9月に最大電力となっていることから先程の特異点の考察から電力平準化の余地があると考えられます。つまり、ピークシフト、ピークカットにより年負荷率の改善が期待できます。
次に、時刻別電気・都市ガス使用量(図8)について見てみましょう。
図8
①の始業前時間帯は、電気が各期とも上昇時間帯が同じなのに対し、都市ガスは上昇時間帯が夏期に冬期と比べ早いです。
②の操業時間帯は、電気使用量の特徴である昼休み時の低下が見られません。
これは消灯の不十分が考えられます。よって、照明設備は現地調査の対象と言えます。
③の残業時間帯は、電気・都市ガスともに緩やかな減少をたどっていて、これは一般的な特徴と言え問題ないでしょう。空調・照明区画の限定で更なる省エネルギー化が期待できます。
④の非使用時間帯は、電気・都市ガスともに、夏期に消費が見られます。夜間の不要な照明・換気・熱源等がないか確認が必要です。
最後に、エネルギー管理に関するアンケートを元にどういったことがあ不十分なのかを見てみましょう。アンケート結果を元に項目を数値化し、グラフにしました(図9)。
図9
計測・記録が他に比べ低く出ており、その重点項目として設備稼働時間を挙げてみますと、その対策として電気の切り忘れ防止があります。これは比較的容易にできます。
また、見直しが必要と思われる項目として、計画的人材育成が挙げられます。具体的にはエネルギー管理を専門的に行える担当者等の育成ということです。
それと、トップの意思表示や目標設定も必要になってきます。目標に関して従業員がしっかり認識を共有していることが大切です。
以上の事前情報の分析を元に着目すべき設備やその運用等を洗い出し、診断方法等の事前準備を行い、現地診断を実施することになります。
今回の分析を通じ、実際に確認が必要な設備として
ガス吸収式冷温水機とその周辺機器で構成される熱源設備
空調設備
照明設備
が挙げられます。その使用環境や使用時間・期間の状況、また、エネルギー記録の担当者やその他の従業員等の省エネに関する意識が現地診断での着目すべき点として考えられます。
次回は、現地診断の結果の事例を紹介し、そこから課題を抽出し、解決するための提案事例を挙げてみます。
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